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シリーズ23 東京の回遊式池泉庭園                                                       電信文庫表紙ページへ

第六景 殿ケ谷戸庭園を訪ねて (2012年10月6日 訪問)

殿ヶ谷戸という面白い地名を見た時に、私は”戸”の字を見落として殿ヶ谷と呼んでいました。実は意味は”殿ヶ谷”の意味と全く同じなのですが、この土地名は言葉として”殿ヶ谷”に”戸”が付いたと考えるのではなく、”殿”と”谷戸”と言う言葉が繋がって出来た言葉なのです。つまり”殿様の土地の谷戸の場所”という意味です。この谷戸とは辞典に依れば、谷状の地形を言うのだそうです。類似語には谷地、谷津、谷、また谷だけでやとと読む場合も有るとのことで、同じ意味で使用されると有りました。JR中央線の国分寺駅で降りて東へ向かいます。駅のコンコースを出ると、すぐに殿ヶ谷戸庭園と書かれた割と大きな立て看板が左手に見えました。信号を渡り、左手に回ると2分ほどで着きます。受付を済ませ、中にはいると、わりと開けた場所に出ます。左手には昭和の初期の頃の建物が見え、開けた庭には赤松の木が数本見られます。手入れは行き届いており、芝生に寝っ転がれば気持ちの良い天空が望めそうです。庭の奥行きは狭い様に思えました。
更にゆっくりと左にカーブしながら下っていくと、池が見えてきます。池の水源は湧き水のようです。池には”次郎弁天池”と名前が付けられていましたが、その名前の由来についてはどこにも記載されておりません。今度はまた左にカーブしながら、石段を登っていきます。その石段を登り切った所には、紅葉亭という建物が有ります。その建物の周りにはモミジの枝が池の方へ垂れ下がっていましたので、秋の頃にはモミジの紅葉が綺麗なのでしょう。そこから次郎弁天池を眼下に望みながら、楽しむ様になっているのでしょう。その建物から池の方に降りる道が有りましたので行ってみますと、水のわき出ている水源に到りました。水の湧き出る音はありませんでしたが、その水源から流れでる清らかな水が、ちょろちょろとと言う音をたてて流れていました。水源は周囲に生えたリュウノヒゲによく似た植物に覆われて余りよく見えません。この水源とは別に、先ほどの紅葉亭の下あたりからは、少し水量のある流れが滝と言うよりは渓流のような感じで流れています。その迸る水は、湧き水にしては水量が多いような気もします


殿ヶ谷戸庭園 管理棟から見える庭  殿ヶ谷戸庭園 右に竹林、左手土手には花  殿ヶ谷戸庭園 滝と言うには細い流れ 
管理棟から見える庭  右に竹林、左手土手には花  滝と言うには細い流れ 
     
殿ヶ谷戸庭園 水源から活けに繋がる  殿ヶ谷戸庭園 池から管理棟に上がる階段  殿ヶ谷戸庭園 道祖神の碑から下を見る 
水源から池に繋がる  池から管理棟に上る階段  道祖神の碑から下を見る 

湧き水の水源から、紅葉亭と反対方向に上る道があります。そこに立っている道しるべには”馬頭観音碑”とあって”通り抜けできません”と記載してありました。途中には右へカーブしながら前に紹介した竹林の方へ行く道が有ります。更に登っていくと、殿ヶ谷戸庭園の最も高いレベルまで来たようです。馬頭観音は小さな石碑で、特段の物では有りませんでした。しかしその場所から次郎弁天池を観る眺めはすばらしく、またいま登ってきた階段の登り切った付近の木々が夕日を浴びて輝いて見えました。

殿ヶ谷戸庭園 木々の間から見る池  殿ヶ谷戸庭園 夕日が木をオレンジに染める  殿ヶ谷戸庭園 シモバシラの花 
木々の間から見る池  夕日が木をオレンジに染める  シモバシラ(霜柱)の花 

このシリーズで訪れた旧古河庭園もそうでしたが、この殿ヶ谷戸庭園に於いても本屋敷は高台にあり、和風庭園はそこから降りきった谷間に有ります。もちろん普段の生活は日当たりの良い高台に有るのが良いでしょう。また水をふんだんに使う和風庭園は谷間に設定することが当たり前なのかも知れません。しかし本屋敷からは和風庭園が全く観られないのは残念な気がします。それが理由の一つになっているのかも知れませんが、旧古河庭園では、本屋敷から見えるゾーンは西洋風の庭園で作られ、日本庭園はそこから谷に降りた場所に木々に隠れるように造られています。この殿ヶ谷戸庭園も、本屋敷から見える庭園は和風ですが、広々とした芝の庭になって、そこから谷に降りた所が和風の回遊式庭園になっています。本屋敷から眺められる庭と谷の下にある庭園では、その雰囲気が全く異なっています。その表情の違いを良しとするのか、あるいは不統一と感じるか。この殿ヶ谷戸の庭園の評価はそれによって定まってくる様にも思われます。貴方はどのように感じられたでしょうか。私は一つの敷地に二つの全く異なる庭園がある意味を測りかねています。この殿ヶ谷戸庭園では、本屋敷から望めない和風庭園を楽しむために、和風庭園を望む所に、紅葉亭のような建物が必要になってくるのでしょう。ここは四方を高い丘のような高台に囲まれていますので、滝や渓流の水の音を楽しめますし、外からの音はほとんど入ってきません。強風が吹いても影響は少ないでしょう。まるで別世界のような気がしました。道祖神の碑から湧き水の水源に一端戻って、紅葉亭まで登り、庭と反対の方向に回ってみますと、そこにもちょろちょろと湧き出ている所が有りました。入場した入り口の方へ戻る途中には、秋の七草が植えられており、桔梗、女郎花などの花が観られました。また入るときには気が付きませんでしたが、シモバシラという白い釣り鐘状の花をたくさん付けた植物が植えられていて、私はその花に初めてお目に掛かりました。白とピンクの色合いが優しくて、感謝の気持ちで殿ヶ谷戸庭園を後にしました。

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