
(2012年9月12日 訪問)
浜松町の北口を出て海側に向かうと、すぐ庭園の入り口が見えてきます。駅から歩いて一分とありましたがまさにそれくらいの近さにありました。入り口の脇にある管理事務所で入場券を貰って中に入ります。まず外をグルーッと回った後、中の池沿いを歩くことにしました。入り口から入ると、左手に8m四方ほどの藤棚が見えてきます。その下には休憩所になっていて、日陰を当てに庭園を見終わって疲れを癒やす人や歩いている途中で休憩中と思われる人たちが、凉を取っていました。その中にはサラリーマンと思える白いワイシャツを着た人もいます。その付近では近代的なビルが周囲に沢山見ることが出来ます。付近の事務所ビルから気分転換に来ているのかもしれません。入園料は自販機のコーヒー缶と殆ど同じくらいです。浜松町駅の近くであり、付近には高層ビルが建ち並んでいますので、庭園のイメージとしてはあまり期待できないかなと思いながら庭園の中に入っていきました。木々の合間から新幹線が通過していくのも見えます。しかし思ったより電車の騒音は気にならないようです。樹木が音を吸収しているのでしょう。歩いていても視線をあまり上げなければビルの存在も、あまり気にならないことが少し分かってきました。一方、池の中には”西湖の堤”と呼ばれている景色が見えます。この西湖とは、中国の杭州市の西湖を指しています。歴史的にも、文学的にも著名な湖で、世界遺産にも登録されていますが、ここでは風景の中に漢詩の味わいに浸ることを意図したものかもしれません。堤とは土手を表す言葉ではなく、池の中の道のことを言っているようです。その手前には雪見灯籠が見えますが、雪見灯籠は景観の重要なポイントになっていると思います。別な角度から眺めるとまた違ったイメージがあるかもしれません。芝生広場付近に行くといろいろな木が植えられています。今の時期は花が少ない時期ですので、風景の中に色合いが少ないと感じますが、初秋を思わせる葉っぱが赤く色づいた木も見られました。
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西湖の堤 |
紅葉した葉と緑の対比が美しい |
丁度今、ヤマボウシの薄いオレンジ色をしたでこぼこの実が沢山なっていました。少し北の方へ行きますと通路の脇に石組みが見えてきました。またその奥には池が見えます。私はこのように何があるのだろうと興味を起こさせる場所が好きです。池の近くへ行って見ると、その石組みされた岐路の出口のところに”枯れ滝”と書かれた表札が立っていました。この様に近くで見ると枯れ滝には見えませんが、池の向こう側の雪見灯籠付近から見ると枯れ滝に見えるのかもしれません。その付近からは池の周辺の道になっているため、池沿いに進んでいきます。その道は直径50cm程の石の平板が並べられた道になっていて、人を視覚的に誘導するような道づくりがされています。その途中には何に使われたのか判然としませんが、池の中に木杭があり、その一本の木杭の天端に、野草の花が咲いているのを見つけました。花が小さすぎて、池の中にあり近くまで寄れませんので、花の名前までは分かりません。しかし自然の中で根性で花を咲かせる植物を見つけますとなんだかほほえましく思えます。「あんたは実に立派だ」と言ってあげたいと思うのです。その道の先に一枚岩の橋が架かっていて近づいてみると、やけに歪(イビツ)な形をしています。その橋を渡りきったところに表札が立っていて、そこに”鯛橋”と書いてありました。なるほど!。それが解った上で橋を見直すと、たしかに鯛焼きの形にも見えます。写真の右側がしっぽの部分で、上側が腹、下側が背びれの部分のようです。しかし、扁平すぎてあんこは少なさそうだなと思いながら渡り直しました。
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平たい石の橋への道 |
ど根性で咲く花 |
平たい橋は鯛焼きか? |
四阿(あずまや)を過ぎ、八つ橋を渡り、池の真ん中に浮かぶ浮島を見ますと、その浮島の縁に、大型の鳥が羽を休めているのが見られます。鳥の名前まではその時は解りませんでした。しかしビルに囲まれたこの様な大都会の中にも、来る鳥がいるということに強い安心感を感じました。人が邪魔をしない所で安心できる環境さえあれば、この様に鳥は来るのだということを、私たちはもっとしっかりと受け止めなければならないと思います。この中之島から雪見灯籠を見て見ましょう。雪見灯籠は、確かに雪が降った時に、その姿が映える形をしていると思います。地面に降り積もった所に3本の足でしっかりと立ち、頭の傘は広く、真っ白な雪を乗せて、松の茂る池之端に静かにたたずむ姿を想像できました。冬には見応えのある風景を見せてくれるでしょう。この庭園の池の作りは自然で、池の中に小さい岩が置かれていて、水の間からいくつか顔を覗かせているのは、昔この庭園が、汐の満ち引きを取り入れて作られていた名残りだと思われます。汐の干満によって、岩が見えてきたり見えなかったりする、それで景観の変化を付けて、見る人を楽しませたに違いない。今は海の水は、入っておらず、淡水化されていてそれが見られないのは少し残念な気がしました。
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対岸で憩う野鳥(アオサギ?) |
対岸の雪見灯籠 |
池から顔を出す岩群 |
先ほど話が出てきた西湖でも、作られた当時は海水の出入りする湖であったとようですが、今は淡水化しています。ほとんど池の周りを一周して、北側に回り込んで池の反対側に行って見ると、木々の森の上の方に高層ビルが乱立しているのが見えました。しかしこの角度からは、自然の景観を破壊する都市の乱雑さは感じられません。寧ろ、見る場所によっては、自然との都市の調和を感じさせる景観になっているように思われました。その写真が下の写真です。枯れ滝付近から北側の方角を望んだ写真です。池に映ったビルの姿が、逆に自然を引き立たせている様に感じました。建物と自然が互いに主張するのではなく、お互いがその存在を認めて、溶け合っている様に見えます。この庭園の一周を終えて感じた全体的な思いは、この庭園は大都市の中で回遊式池泉庭園として非常に適合していると思います。庭造りの細かい所で述べれば、回遊している中で見せてくれた枯れ滝や雪見灯籠、鯛橋、浮島、平石の歩石の誘導など、見学者を飽きさせない変化を見せてくれていますし、大形の鳥の存在や木杭の上で生きる植物の強い生命力など、自然のふつふつとした力を垣間見せてくれて、歩いていて楽しく感じました。大都会のど真ん中にあって、しかも超高層ビルに囲まれながらも、都市の騒音をはね除け、周囲のビルの姿を池に映し出して、それとも調和させる、都市の公園のあるべき姿を見た思いがしたのです。ある意味では純粋な回遊式泉水庭園としては高い評価には為らないかもしれませんが、都市の景観と融和した現代に生きる和風の庭園として高く評価出来ると思います。
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和風庭園と近代建築の調和 |
向こう岸の雪見灯籠と手前の小灯籠 |