

最終景 (2012年10月22日 訪問)
東京都の管理する庭園部門に向島百花園が記載されていたので、他の7つの庭園と同じと考えていましたが、向島百花園のみは全く違った様相をしています。そこでグッと悩みが発生いたしました。他の7つの回遊式池泉庭園と同列に取り上げて良いのかどうか、有る期間相当迷ってしまいました。他の7つの庭園は景観として見せる庭園であるのに対して向島百花園はそれぞれの時期に咲く花を楽しむことに重点が置かれています。つまり景観は2の次なのです。私としてみれば回遊式池泉庭園という構成の中で、景観造形をどの様に評価するかというテーマを掲げてこのシリーズを立ち上げました。向島百花園には泥水池があり、回遊する道もあり、所々には風情のある部分も有りますので、全く違うものとも言い難いような気もします。しかし”回遊式池泉庭園には含まれないぞ”という認識は根深く頭の隅に残って、向島百花園をこのシリーズで取り上げても良いのかということで迷っていました。なかなか判断し難く、また撮影した写真を何度も見直して、一応文章を書いた上で含めるかどうか判定する事としました。 (結果として掲載する事にしました。)
白川清澄駅から地下鉄半蔵門線に乗り、北へ向かいます。半蔵門線には曳舟から東武線が乗り入れていますので、そのまま乗って東向島駅で下車しました。出口改札は先頭車両の方にあり、線路沿いに南側に行き、駅が終わるところで右に折れます。そこから真っ直ぐと西へ向かいます。明治通りの広い道路を横断して暫く行きますと小さな公園がありました。その公園脇には、今盛りとキンモクセイ(金木犀)が咲き、下の方には沢山の蕾を付けたアセビ(馬酔木)が植えられています。歩いて行くその周りには、キンモクセイ特有の薫りが漂っています。
その公園の切れるところに向島百花園の入り口の案内板が有り、その小さな公園が向島百花園のような感じに受け取られるような表示でしたので、「えっ。こんなに小さいの?」と声が出そうになりました。しかしその公園の奧の方に向島百花園の入り口らしきものが見えて、ほっと安心致しました。もう秋も終わりに近いので、ハギ(萩)の花など秋の花は期待できないだろうという思いで入園の手続きをしました。中に入りますと人の背丈よりも少し低いくらいの草が、辺り一面を覆っています。「そうか。庭園として見せる場所ではなく、できるだけ沢山の花を見せる場所という事での百花園だからな。花を見せる場所なんだよな~。」とそこで初めて気が付いたのでした。もうこうなったら秋の花を探そうと一所懸命になるしか有りません。本日は私が務めている会社は創設記念日でお休みですが、一般的には平日の月曜日に当たります。今日、この園内では手入れの作業が行われ、激しいディーゼルエンジンの音がして、余り静かに花を観賞する雰囲気では有りません。しかし年中無休の公園として維持していく上では、これも仕方のないことなのでしょう。なるべく騒音を気にしないで穏やかな気持ちで見て回るように努力しましょう。
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キンモクセイ(金木犀)の花 |
フジバカマ(藤袴)の花 |
ジンジャー(生姜)の花 |
今は秋も深まってきて、秋の花でも晩秋の頃見られる花が中心になっています。この園内では、あちこちに藤袴(フジバカマ)が咲いています。萩も3種類ほど有るようです。一昨年京都の大徳寺の塔頭の前で見ましたジンジャーは白い花でしたが、ここのショウガは橙色の花を付けています。こちらの方が花としては豪華なように思います。また芙蓉の花もありました。後で庭園の事務所の掲示板で確認したところ、スイフヨウ(酔芙蓉)とわかりました。全体が白ですが少しピンクの色が付いて、麗人がお酒を召して少し顔を赤くした様な風情を思い起こさせます。最近の女性はお酒が強くなって、顔色一つ変えない人が多いのですが、この酔芙蓉には貴婦人が酒を召して少し頬を染めた様子をうかがえる様な色香を感じさせます。この庭園の奥の方に池が有りますが、水が腐るのを防ぐためか、ブローして水を強制的に循環させているようです。そのため池底の汚泥が拡散され、池の水は汚水の色をしていて、決して綺麗ではありません。
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スイフヨウ(酔芙蓉)の花 |
池に掛かる土橋 |
草むらの中の歌碑 |
池の向こうには土橋が掛かって風情を作ろうとしているのですが、汚水の水を攪拌している状況を目にしますと、それもなかなか難しく感じさせます。そういったところから少し離れて背の高い草の向こうを見晴るかすと、園内には歌碑がいくつか建っています。大きな石に刻まれた歌を詠みながら道を進んでいきます。それらの歌碑は背の高い野草に囲まれて、自然のゆったりとした趣を感じさせます。
殿ヶ谷戸庭園では、萩のトンネルは体験できませんでしたが、ここではしっかりとトンネル状になっています。花は少ししか残っていません。折角ですから周りを萩に囲まれてみようとトンネルに入ってみました。花はちらほらでそれは最初から予定していたことですので良いのですが、数歩中に入ったとたんに、今年最後のアガキをする蚊に襲われましたので、急いで萩のトンネルから身を翻して抜け出しました。そこから左手の方へ回り込むと、イタドリ(虎杖)の実が見られました。イタドリの花は小さな花が沢山つくように咲きます。実は水滴のような形の薄い膜に包まれて垂れ下がったような形をしています。大凡一回りして最初に入ってきた入り口近くから右に行く道があります。その先に小さなお堂が有りました。
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萩のトンネル(花は終わり) |
ハギ(萩)の花 |
イタドリ(虎杖)の種子 |
そのお堂の周りには赤い水引の花が咲いています。水引は殆ど閉花の状態ですが、時より開いた花を見せてくれます。花の半分が白で半分が赤色をしていて、それが水引という名前になったのでしょう。花を見終わって正門の方を振り返ってみますと欅の大木が空に大きく枝を広げていました。その枝の合間から見える空の色は少しあかね色に染まり始めていました。
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百花園の出口広場(空が少し赤く染まっていた) |
無事8つの東京という大都市の中の回遊式池泉庭園を巡り見て回りました。いろいろな感想がありましたが、また一寸した納得感も感じられました。また庭園については、京都の庭を巡ってみたいという希望の意識も湧き上がってきました。全てではありませんが、東京の回遊式庭園でも有る程度の満足感を与えてくれたと思っています。